胃に住む細菌、ピロリ菌がよく話題になります。以前にもこの欄に書かせていただきましたが、日本人では50歳以上の方の約半数が、また若い方では少なく、20歳代では10~20%程度の方が胃の中にピロリ菌を持っているとされます。
ピロリ菌の感染が起こす疾患はいくつかありますが、大きな問題は胃がん誘発の可能性を持つことです。実際に、先進諸国の中では、日本人に胃がんの発症率が高く、ピロリ菌の保有率が大きな関係をもつとされてきました。
ピロリ菌は一般に幼いころの経口感染でうつるとされています。胃がんの発生母地とされる萎縮性胃炎は、このピロリ菌感染胃炎に由来するものが多く、ピロリ菌除菌による胃癌予防効果が強く期待されています。
実際に2008年に雑誌Lancetに報告された、我が国の大規模臨床試験では、早期胃がんに対して内視鏡治療を行った患者さんたちを、その後、ピロリ菌除菌を行ったグループと、行わなかったグループに分けて経過をみると、新たな胃がんが出現する可能性は、ピロリ菌除菌を行わなかったグループでは、除菌したグループの約2倍にのぼりました。
これまで、保険治療ではピロリ菌を有する胃潰瘍・十二指腸潰瘍、あるいは早期胃がんに対し内視鏡治療を行った方等にしか、除菌治療が適応とされていませんでしたが、今回の改正により、ピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療が保険治療として認められました。
また、保険治療でピロリ菌除菌治療を行う際には、検査でピロリ菌に感染していることが確認され、胃内視鏡検査で慢性胃炎の所見があることが必要とされています。
ピロリ菌感染の診断方法は大きく分けて、三つの方法があります。
1.胃内視鏡を行った際に検査する方法:胃粘膜の一部を採取し、ピロリ菌の有無を見ます。簡便法では15分から30分ほどで結果が出ます。
2.尿素呼気試験:試験薬を服用し、吐いた息を調べます。ピロリ菌の産生する物質が中に含まれているかをみることにより、ピロリ菌がその時に胃の中にいるかどうかを、調べることができます。ピロリ菌の除菌治療が成功したかなどを見ることに役立ちます。
3.血液検査でピロリ菌抗体の有無を見る方法:過去にピロリ菌に感染したことがあるかどうかを見る方法です。現在、胃の中にピロリ菌がいるかどうかの診断ではありません。しかし、ピロリ菌は除菌治療をしなければ消えることは少なく、この検査で陽性となり、除菌治療の既往がなければ、感染を強く疑います。
実際の除菌治療は、抗生物質と制酸剤を服用して行うことになります。1回での除菌成功率は約80%程度で、この一次除菌でピロリ菌が消えなかった場合は抗生物質を変えての二次除菌に進みます。一次・二次除菌を合わせての成功率は97%程度に上がります。
これまでに、胃内視鏡等で慢性胃炎を診断された方、ピロリ菌感染を機にされている方は、ご相談をいただければと存じます。
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